柿本人麻呂は、謎の多い歌人であるといわれますが、本書で目指したのは残された作品の世界と向き合うことにより、それまでは口承レベルだった声による”うた”の世界を、人麻呂が文字を使って表現しようと取り組んだ結果、文芸作品としての〈質〉を見事に向上させていったプロセスを明らかにすることです。そのため人麻呂の生きた時代や日本語(やまと言葉)の文字化の歩み、また和歌という文芸表現が持つ特質なども踏まえつつ、この和歌史上の基点ともいうべき偉大な実績を残した歌人・人麻呂の実践の意味を読み解いていきたいと思います。